7.

「これでよし……と言いたいところだけど、よくないね。部屋も用意しないとだし、まずその恰好をなんとかしないとねえ」
「とりあえず風呂にいれろ。小娘、おまえの故郷に風呂はなかったのか?」
 ボレアスがしかめた顔を拭う。鼻を押さえているようにも見えた。
 ダムゼルが困った顔でボレアスをテーブルの上に降ろし、立ち上がってシンシアの前に立った。腕から離れたボレアスはテーブル上を横切って近づく。
「風呂に入る前に髪を切らないと。洗い切れないよ、これ」
 眉根を寄せたダムゼルが手を叩くと、丸椅子とクシとブラシと手鏡、そしてハサミが飛んできた。
 初めて見たものに――いや、きっと見たことがあるのだが記憶にないのだ。記憶にないので、そう思い込んでいるシンシアは興味をそそられた。
「なんですか、それ」 と、訊ねる声が好奇心に満ちてわずかにうわずる。
「とにかく、こっちにお座り」
 シンシアを丸椅子に移動させ、ダムゼルは空中に浮かんでいるクシとブラシを取り上げた。
「こっちがクシ、こっちがブラシ。髪の毛を梳かすのに使うんだよ」
 シンシアは目の前に移動してきた手鏡を手に取った。
「それは鏡。自分の姿が映るだろう? で、これがハサミ。こうやって、ここに物を挟むと切れるんだ。危ないから指とか入れるんじゃないよ」
 シンシアは素直に頷いて、また不思議そうに道具を眺めた。
「なんだ、そんなものも知らないのか」 と、ボレアスが変わったものを見るように笑って、腰を落としたその隣にノートが並ぶ。
「仕方ないだろ。五歳児レベルの知識で人間の生活から離れてるんだ」
「……シンシア、あんた今年で歳はいくつになるの?」 ダムゼルが訊ねた。
「えっと……」
  突然の問いにシンシアはぱっと鏡を放した。落ちるかと思われたが、ダムゼルの魔法のおかげで鏡はその場に浮いたまま、シンシアの顔を映している。
 シンシアは両手を使って数を数える。苦戦しているようだ。
「たぶん十三歳……には、なってる」
「なんだい、それ。……あー、じゃあ生まれた日はいつ?」
「わかりません。夏だったと思います」
「……次の葉っぱが枯れたら六年目だろ? 今はまだ春で……。教会に半年、それまで五年……」
「何言ってるんだ、小僧」
 隣でブツブツと何かを呟く黒猫をボレアスが不審な顔で見る。
 シンシアの計算はあてにならないと踏んで、こちらも勝手に計算していたのだ。夏生まれということが正しいなら、案の定、計算の答えは違った。
「シンシア。あんた次で十二歳だ」
「ふうん。十二歳にしちゃ、成長は遅れてるね」
 ダムゼルは腕を捲り、どこからともなく取り出した黒い大きな布をシンシアに巻きつけた。首元から一緒に巻き込んだ毛を引っ張り出して、埃まみれのシンシアの金髪にクシを通した。が、ずっと梳いていないのは明らかで、クシはすぐに進まなくなってしまう。
 ダムゼルが苦労しても、腰を過ぎる金髪はせいぜい肩を過ぎるほどまでしか梳けなかった。
 ダムゼルは思わず舌打ちする。
「強情な髪だねえ……ったく。最後に髪を梳いたのはいつだい?」
「教会に、いたときです」
 教会にいたときがいつかはわからないものの、とにかくずっと放置していたということだ。
 ダムゼルは細かく気にせず、クシを諦めてハサミに持ち替えた。動くんじゃないよ、とシンシアに前を向かせる。シンシアはじっと鏡を見つめていた。
 絡まる髪をできるだけ自然に、真っ直ぐになるように、大雑把に手で整える。これもまた難しい。
「じゃあ、風呂に入ったのは?」
「水浴びは、夏が終わってからしてない、です」
 水浴び、ということは、風呂の代わりは近くの川か湖だったのだろう。夏の暑さが過ぎて、気温や風が寒く冷たくなっては凍えて風邪でもひいてしまう。
 ダムゼルはシンシアの長い髪の一房を掴むと、背中の中頃あたりで大胆にジャキリとやった。埃と油でごてごてと絡まった、栄養素の行き届いていない毛の束が床に落ちる。
「服の替えは? 洗濯は?」
「服はこれだけです。洗うのも、夏が終わる前で……」
 これも風呂と同じだ。服を着ずにいられるのは夏くらいだろう。
 ダムゼルは別の房を掴んで、またジャキリと切り落とす。
「歯は磨いてた?」
「いいえ」
 動くなという命をしっかり守って、シンシアは首を振ることはしなかった。背後でジャキジャキと鳴る音が怖かったせいもあるし、その音が鳴るたびに髪の毛が引っ張られる変な感覚にも、ヘタに動けばろくなことがないと感じていたからだ。
 またジャキリと毛の束が床に落ちた。薄汚れた金色の物体が、もうこんもりと床に山を作っている。
 二人のやり取りを聞いていた猫二匹は、それぞれに複雑な面持ちでシンシアの断髪を見ていた。
 状況を知らないボレアスにしてみれば、不衛生極まりないシンシアをノートはいったいどこの山奥から連れてきたのだろうと考えていたし、一方、村での様子も見ているノートとしては、元々感じていたシンシアの孤独さとそれに対する同情が余計に膨れ上がっていた。
 ダムゼルはそれ以上質問せず、着々と髪を切っている。
「んん……ま、とりあえず、後ろはこれでいいかしらね」
 一通り短くした後ろの髪は毛束ごとに長さもまちまちだったが、ダムゼルはシンシアの前に移動した。
 邪魔な鏡を退けて、シンシアに目を瞑るように言う。ハサミがどういうものか大体わかってきたシンシアは恐怖を滲ませて、笑顔のダムゼルを見返した。
「別に刺そうってんじゃないんだから、そんな目で見ないでおくれ。髪の毛が目に入ると痛いから、閉じといたほうがいいんだよ。多少は怖くもなくなるからね」
 目を硬く閉じたシンシアを確認し、ダムゼルは後ろと同じように伸びた前髪を掴んだ。なるべくそーっとハサミを入れたが、顔面との距離が近い分、切られている感覚は増すため、シンシアはときどき小刻みに震えた。
 前髪は目の下くらいで揃えて、ダムゼルはハサミからブラシに持ち替えた。一通り髪を梳いて細かい髪を払い落とすと、シンシアに巻きつけていた布を取り払う。
 被さっていたものがなくなり、閉じていたシンシアの瞼も上がった。
 椅子の足元には怖いくらいの量の髪の毛が溜まっていた。白と金と茶色の変わった毛束だ。
 ダムゼルがまた手を叩くと、積み重なった物の山の中から箒と塵取りが飛び出した。まるで誰かが動かしているように髪の毛を掃き取って、部屋の隅にあるゴミ箱へ飛んでいく。捨てた後は、その場で壁に寄り掛かって動かなくなった。
 すごい、とシンシアが息を飲む。
「さあ、シンシア。風呂に入って、その汚れた服も取り替えるんだよ」
 ダムゼルはシンシアを手招きして、ダイニングの奥にある扉へ連れていった。その先は廊下だった。すぐ向かいにまた二つ並んだ扉があり、左側に続く廊下の奥には二階へ上がる階段がある。
 扉のうち、右側の扉にはノブがなく、左側には丸い取ってがついていた。ダムゼルはドアノブのない目の前の扉を指し、「こっちは洗濯場だから」 と言って、左側の扉を開けた。
 そこは、シンシアにとって、久々に見た浴室だった。
 記憶にあるものより倍は大きくて、ドアを入った手前側の正面にはトイレ、ドアのすぐ横には鏡と数々の棚が付いた洗面台。奥にシャワー付きのバスタブと数々の瓶が載った戸棚があった。
 トイレとバスタブの間の壁には、上に引き上げるタイプの小さなくもりガラスの窓がある。
 また、バスタブと洗面台との間には大きめのカゴが二つと小型のラックがあり、ラックの上には真っ白なタオルが二段になって積まれていた。
「いいかい、覚えるんだよ」
 ダムゼルはつかつかとバスタブに向かって、まずカゴを指差した。
「着替えの服は四角いカゴ、脱いだ服とか使ったタオルはこっちの丸い方に入れること。間違えないようにね。で、バスタブに入ったらカーテンを閉めて、裾は内側へ入れる。まあ、うちのはそんなことしなくても水が溢れたら勝手に流れて乾くようになってるんだけど……。一般はそうだから覚えときなさい。ここまでいい?」
「はい」
 六年ぶりで記憶の曖昧なシンシアは、できるだけ一回で覚えようと真剣にダムゼルの説明を聞く。ダムゼルも実際にやって見せているので、理解するのに苦労は少ないほうだ。
「シャワーは、このコックを右にひねる。ひねりすぎると勢いも強くなるから、ゆっくりひねったほうがいい。こっちが水で、こっちがお湯。自分で好みの温度を調節すること」
 シンシアは復唱して頷いた。
「よし。じゃあ、ここからは口で説明するだけじゃ難しいから、実際にするのが一番だね」
「ダムゼルさんも、一緒に入るんですか?」
「いいや、あたしはあんたを手伝うんだよ。ほら、服をお脱ぎ」
 シンシアは靴を脱ぎ、ずっと肩に引っかかっていたボロを取って丸いカゴへ入れた。
 シンシアが服を脱いでいく間、ダムゼルは崩れたままにしていた髪を束ね直して、器用に手早く団子にした。
「ほら、入って」
 シンシアが入るのを待って、ダムゼルは棚の扉を開けて中を見せた。
 今はダムゼルがいるから、閉めたカーテンは外に出したままにしている。
「ここからがちょっとややこしいんだ」
 ダムゼルは魔法で棚の下の段から白い容器を取り出した。バスタブを間に挟んでいると、胸の高さにある棚にはダムゼルでもぎりぎり届くか届かないかの距離なのだ。
「これがシャンプー。頭を洗うやつ」
 容器の水色の蓋は引っ張るだけですぐに外れた。容器の尖った口から出てきた白い液体はダムゼルの手の平に落ちると、なだらかな膨らみを作って丸く広がる。ほわん、といい匂いが鼻先を掠めた。
「これをこうして少し泡立てて、頭に載せる。あとは広げながら洗うだけ」
 ダムゼルは泡立てたシャンプーをシンシアの頭全体に広げながら洗う。ほどよい強さで押されていく感触が心地よかった。ある程度洗うと、残りは自分でやらされる。
「爪を立てないで、指でこするんだよ。目に入らないように気をつけること。それでも目に入ったらすぐに水で洗い流すこと。いいね?」
「う……は、い」
 シンシアは固く目を瞑って、たどたどしくダムゼルの洗い方を真似た。
 洗い終わると一度流してまた洗う。ずっと洗ってなかった埃や油は、一回やそこらではなかなか綺麗にはならなかった。
 結局三回洗って、説明をされながらリンスを二回使い、シャワーで綺麗に髪を流した。
 ダムゼルはカーテンを少し開けて、ラックから小さいタオルを取ると、シンシアの髪が邪魔にならないように巻いて持ち上げた。
「次は顔。洗顔はこれ」
 ダムゼルが今度は戸棚からチューブを取り出し、シンシアの手の平の上に少しだけ搾り出した。シャンプーと同じような少し粘り気のある液体だったが、なんだかつぶつぶしたものが含まれている。
「泡立てて」
 ダムゼルの手をすり合わせる様子を真似ると、たちまちポワポワとした泡の固まりになる。
「顔に乗っけて、優しく洗う。これも目とか鼻とか口には入れるんじゃないよ。しっかり目を瞑っておいで」
 顔を洗い流すと、顔の皮がぴんと突っ張った。引っ張られている感覚が気持ち悪くて、シンシアは何度かほっぺたを両手で押した。ダムゼルが言うには、そういうものらしい。
 それで、次は体だった。スポンジにボディソープを泡立てて体をこすると、真っ白な泡は驚くほどの速さで灰色に変わった。
「とりあえず洗ったかい? 一回じゃ落ちないだろうからもう一回洗いなさい」
 シャワーで流してまた洗って――。そうしてやはり三回ほど洗うと、ようやく泡も汚れなくなった。
「んじゃ、全部洗い終わったら、シャワーでそこら洗い流して――叩く」
「叩く?」
 ダムゼルがバスタブの縁を手で三度叩くフリをしたので、シンシアは同じようにして実際に叩いてみた。
 たちまち息が吹き込まれたようにバスタブの栓がはまり、底から温かいお湯が湧きあがった。瞬く間にお湯はたっぷりになり、白い湯気が立ち上る。それだけではなく、透明だった湯は桜色に染まった。
 ダムゼルに肩をぐっと押され、シンシアは湯の中に座り込む。温かい湯が肩まで包む。
「疲れたろ。ゆっくり浸かって出ておいで。あんまり度が過ぎると倒れるからほどほどにね。くたびれたと思ったらすぐに出るんだよ」
「はい」
「後はカーテンを開けて、栓を抜くだけでいいから。バスタオルはそこの上から取って、使ったら丸いカゴにね。着替えは……あたしのお下がりだけど持ってきてあげるから」
「ありがとう、ございます」
 いいよ、とダムゼルは笑って出ていった。
 シンシアは心地良い温かさを楽しみながら、手足を伸ばしてみた。めいっぱい伸ばしても足先には何も当たらない。
 ばたばたと湯を蹴ったり、手ですくったり掻き混ぜたりして遊んでいると、浴室の扉がノックされて開いた。
「シンシア、服置いとくよ」
「はあい」
「こっちは洗濯しとくからね」
 シルエットの浮かぶカーテン越しに、ダムゼルは丸いカゴを抱えてまた出ていった。
 シンシアは遊ぶのをやめて、バスタブにもたれかかると目を閉じた。思わず深い溜息が出る。
「お風呂、気持ち良い……」
 ふわっと優しい匂いがして、シンシアは鼻を鳴らした。
 どこからするのだろう、とあちこちを嗅いでみて、それがどうやら自分かららしいと気づいた。お湯からも同じような匂いがする。
 ずっと夏場の水浴びだけで六年間も風呂に入らず、汚れたままで過ごしていたシンシアだ。おかげで鼻は麻痺していたようなもので、汚れの匂いには慣れてしまっている。バカになっている鼻には、その花のような匂いが少し異様な感じで逆に鼻につく。
 嗅いでいるうちに頭がくらくらしてきたシンシアは鼻での呼吸を止めて、口で息をすることにした。少し苦しい。
「ふあ〜……」
 温かさが眠気を呼んだのか欠伸が出た。このまま寝てしまえそうだった。
 ――あんまり度が過ぎると倒れるからほどほどにね。くたびれたと思ったらすぐに出るんだよ。
 ダムゼルの忠告が頭の中に甦る。
 眠い=疲れている、の公式が成り立つシンシアの頭では、もうこれ以上はだめだと判断された。
 言われたとおりに栓を抜き、カーテンを開ける。ラックの上の「バスタオル」がどれかはわからなかったが、手前にあった大きいほうを使うことにした。
 水分を拭き取っているとき、さっきダムゼルが丸いカゴを持って行ってしまったことに気づいた。どうしよう、と困惑したが、その心配はなく、代わりの丸いカゴがちゃんと置いてあった。
 バスタブの横には丁寧に布まで敷かれていて、シンシアはその上に出ると四角いカゴを引き寄せた。畳まれた服が着る順番どおりに重ねてある。
 痩せこけたシンシアにとって、服は六歳当時の子供サイズでも――袖が短かったりしたが――十分だった。靴はさすがに窮屈で、かかとを履き潰していたが。
 履いてみた下着は少し大きめなもののあまり問題はない。だから、白のシャツと紺色のスカートも、一見するとシンシアでも着られそうだった。
 けれど実際に着てみるとシャツは肩幅が合わず、袖も裾もずいぶんと長かった。スカートはダムゼルなら膝丈だろうに、シンシアが着るとすね近くまであったし、ウエストも持っていないとずり落ちていく。
「んんー……」
 どうしたものか。シンシアは小さく唸った。
 シャツの裾はどうしようもないが、袖は二回捲り上げると丁度いい長さになった。スカートのほうは紐で縛るものだったのが幸いし、ギューッときつく絞って結んだ。紐が長くなりすぎて、蝶々結びはやたらと大きい。普通のタイトスカートが今はギャザーを寄せたように波打っている。
 最後にカゴの傍に用意された上履きを履き、シンシアは浴室を出てダイニングへ戻った。
「ああ、やっぱり大きかったみたいだね」
 シンシアが部屋に入るなり、こちらを見たダムゼルが苦笑した。
 戻った先にはダムゼルが散髪セットと一緒に待ち構えていて、またさっきの丸椅子に座らせられた。今度もまた、さっきとは別の布を巻きつけられ、背後でダムゼルがハサミを構える。
「また、ですか?」
「仕上げだよ」
 タオルが取られると湿った髪が落ちてきて、いい匂いが充満する。近くにいたボレアスが鼻をひくひくと動かした。
「鳥臭さもマシになったじゃないか」
 髪を切るダムゼルが 「よかったね」 と、からから笑った。
 今度は時間が短く、切り終わってもさっきほど髪は積もらなかった。
 魔法で乾かしてもらうと、ずいぶんと頭がすっきりして、軽くなっていることがわかった。視界も明るく広くなって、見る世界が変わっている。
「ごらん、さっぱりしただろ?」
 差し出された手鏡を覗き込むと、あのドロドロで絡まり放題だった長い髪は見違えたように小奇麗になっていた。
 あまりの変わりように惚けているらしいシンシアを、鏡ごしにダムゼルが微笑んでいることに気づく。目がかち合って、シンシアは小さく身を縮めた。
「ありがとう、ございます。綺麗になったの、久しぶりで」
「それはよかった。でもまだだね。ちょっと手をお貸し」
 骨と皮ばかりで乾燥した老女のようなシンシアの手を取って、ダムゼルは眉をひそめた。
 長いものから深爪に近い短さまで、長さはバラバラ。表面は艶をなくし、縦にも横にも筋が目立つ。爪の先も折れたり欠けたりとボロボロで、白いはずの部分は茶色だったり黄色だったりに変色している。
 ダムゼルは変な形のハサミを取り出した。その刃を指先に宛がわれて、シンシアはとっさに手を引っ込めようとした。
「動くんじゃない。怪我したいの?」
 強い口調と一緒に、掴まれていた手はぐいっと元の位置に戻される。
「あのね、爪の間ってのは病気の元だよ。こんな汚いままでよく六年間無事だったね?」
 パチリ、パチリと爪の先が切られていく。
「最初に切っとくべきだったね」 ダムゼルが呟いた。
 両手が終わると、同じような状況の足の爪も切られた。
「はい、じゃあもう一度おいで」
 後始末は箒と塵取りに任せ、シンシアは本日二度目の浴室へ連行された。そこで教わったのは手の洗い方と歯磨きの仕方だ。
 シンシアは歯の状態も最悪だった。成長が遅いのか、まだ奥歯が全部生え変わっていなかった歯は汚れまくりで、虫歯がないのが奇跡に近かった。
 ダムゼルの監視下で徹底的に磨かされ、シンシアは口の中にスースー、ヒリヒリする違和感を覚えながら浴室から出てきた。
「おつかれ」
 ダイニングテーブルの椅子に座って、くたりとテーブルに頭を預けたシンシアの傍らに黒猫がやってくる。
「猫ちゃん……」
「ノートだ。……もうすぐ飯も食べれる」
 キッチンのほうからはいろんな音が聞こえていた。

To be Continued...
2009/08/25