▼ぼうけんのしょを ひらく

ジーク
  ナターシャ
  ウイリアム
  カティブ
ゆうしゃ
まほうつかい
そうりょ
バトルマスター
Lv 48
Lv 46
Lv 47
Lv 52
 セーブばしょ    まおうじょう まえ



突然だが、俺は勇者だ。

そう、この世界を滅ぼさんと――いや、支配せんと、だったかな? ……とにかく、良からぬことを企む魔王を倒す、あの勇者だ。

故郷の国を出て、魔物を倒しながら各地を巡り、行く先々の国や町で事件があればそれを解決し、強力な武器や力を手に入れ、仲間を一人、二人と増やしつつ旅をしてきて早数年……。
先月とうとう俺は、

恋人にフラレた。

なんでかって?そんなの俺が聞きたい!
いや、理由なら聞いた。
そしたら返ってきたのがこれだ。

「イマドキ勇者って流行らないよ。ていうか、ぶっちゃけダサい」

え……? えっ!!? はぁっ!?
と言うのがその時の俺のリアクション。

だって6年は付き合っていた恋人だぞ!? おまっ……そんな理由があるのかよ!
だいたい、俺だって好きで勇者やってるわけじゃねーんだよ。昔むかしの祖先が勇者で、俺が勇者の剣の持ち主にふさわしいとかなんとか……。そりゃそうだよな、勇者の血が流れてんだから。俺は直系だし一人っ子だしで、他の人には任せらんないし、世界がかかってるとか言われたら勇者やるしかねーじゃんか!

マリリンめ、最初は「勇者なんてステキ!」とか言ってたくせによ。「この旅が終わったら結婚しよ」とか言ってたくせによ!
チクショーー!! 踊り子の女なんて信用するんじゃなかった!!
流行りの旅芸人タクローだかタローだかなんかにコロッと心変わりしやがって! アイドルなんか、ただ見た目がいいとか歌や踊りが上手いってだけでチヤホヤされてるんだろ。大勢のファンがいるのにお前一人を相手するわけねーだろ!

俺だって、「キャー! 勇者さまー!」なんてハートが飛ぶような黄色い声援が欲しいよ!
可愛い女の子や綺麗なお姉さんにちやほやされてみたいよ! できるなら!

チクショー!  チクショー!! なんだってんだ!

フラレたら、こう、悲しい気持ちになるかと思ったら全然だった。むしろ怒り。しかも、当の元カノ・マリリンが素晴らしい変わり身の早さでさっさとパーティを抜けてしまい、やり場のなくなったどうしようもない怒りだ。その怒りで魔王城まであと二、三はあった町での事件は驚くほど早く事件を解決して、道中では強いはずの魔物をバッサバッサ倒して、今ようやく辿り着いた魔王城は目の前だ。ここ数日でストレスは十分発散して、今は落ち着いて、冷静になれている。

恐ろしい怪物のレリーフを彫りこんだ、重厚でいかにもな扉を、仲間と一緒に開け放つ。
なんだか緊張でピリピリしてきた。

「たのも――っ!!」

……
…………
……シ――――ン。

あ、れ? 反応なし?

「たのも――!!」

……
…………
……シ――――ン。

なんだこれ。場所を間違えたか? ここだって聞いたんだけどな……。他にそれらしい城は見なかったし……。

とりあえず慎重に奥へと進んだ俺たちだったが、出てくる魔物はみんな、やる気がないというか、こう……疲れている。ついさっきすでに戦い終えたかのような……。
もしかして先に別の誰かが魔王を倒しに行ったのか? それにしては道中にある宝箱はすべてそのままだった。俺も仲間もひたすら首をひねる。

「何ここ、ほんとに魔王城なの?」
「そうだろ、たぶん……」
「手ごたえねーけどな」

てなわけで、あっさりと魔王城の最上階まで到着した。

やたらでかい部屋の、これまたでかくて仰々しい玉座の前に、黒いマントの人がこちらに背を向けて立っている。

あれが魔王に違いない。なんだかヒョロッとしているような気がするが、この際どうでもいい。
あいつを倒せば俺は英雄だ!

「おい、魔王! 貴様の悪事もここまでだ!」

そう高らかに、俺は勇者の剣を真っ直ぐ黒マントの背に向けた。

「えー?」

ところが、返ってきたのは気だるげな女の声。
あれ? と思ったのも束の間、黒マントの人物が振り返った。

「悪事? 悪事ってなんのこと?」

……あれ? 魔王って女の人? こう、竜族の血を引く、ごっつい怪物みたいなのじゃないのか?

「ちょっと、何よ、悪事って。むしろアンタたちが家宅侵入罪じゃない」

しかも、めっちゃ美人! アイドルより美人! 黒いドレスがよく似合う、妙齢の、ミステリアス美女!

呆気にとられるあまり、剣を持つ手がダラリと下がっていた。なんだか、さっきまでの緊張も吹き飛んで全身から力が抜けている。

「えー……と、お邪魔してます。あの、そちら、魔王……さま、でよろしいんでしょうか?」

ムッとした顔で(それでも美人!)腕を組む姿に、なんだか俺が悪い気がして、丁寧に尋ねてしまった。「さま」付けまでしている。

「え? ――ああ、まあ、魔王っちゃ魔王だけど……」
「あなたが?」
「そうよ」
だから、なに? と、女性は首を傾げる。

「えっと、魔王って、その、竜族の血を引いてて、角とか翼があって、目がギラギラしてる、図体のでかい強面の怪物だって……お聞きしたんですけども」

だから、なんで俺は丁寧口調なんだ!
後ろにいた仲間のカティブも同じことを突っ込んでいた。

一瞬ぽかんとした女性は、眉を寄せておかしそうに笑いだした。

「アハハッ、なにそれ! そんなの何代も前の話よ! なあに? 下界じゃあ、まだそんな噂が流れてるの?」
「あはは、そっスか……そっスよねー!」

あれ、俺なんで和やかに会話してんだ?
でも、この人が本当に魔王なのか信じられない。

「あ、でも角はあるわ。ちっちゃいけど」

チョイチョイと手招きされたので、玉座に近づくと(階段があるので剣が届かない範囲だが)、女性は屈んで、ホラ、と髪を分けてみせた。

あ、本当だ。
赤い髪の間に埋もれるようにして、羊のようなくるんと巻いた角があった。髪を直す際にちらりと見えた耳も尖っていたし、近くで見た目も金色だった。

「魔術とか、使えるんスか、やっぱり」
「もちろん、ほら」
「おお〜」

女性はいとも簡単に宙に浮いてみせた。思わず拍手。

いや、じゃなくて!! 俺の目的は、魔王を、倒すこと!
後ろにいた仲間のナターシャが杖で背中を小突いてきた。(「ちょっと、しっかりしなさいよ!」)
よし、ここは勇ましく剣を突きつけて――と思ったが女性の顔を見るとどうしても行動に移せなかった。

「あのですねー、えーと、俺、勇者をやらせてもらってるんスけど……魔王さまの悪事でみんなが困ってまして、ハイ」
 後ろから舌打ちが聞こえた。見なくても誰かわかる。おい、ナターシャ、お前だろ。
「あー、アンタが勇者なのね。それで」

何か納得した魔王さ――魔王。

「ということで、悪事をやめて貰わなければ、俺が倒さなくちゃならなくて……」
「なるほどー」

おお、これは穏便に解決できるんじゃないか?
なんて期待を持ったのも束の間。

「でも、私は悪事なんて知らないわ」

と、素敵な笑顔で返された俺はどうすればいい!

「いやまさか、みんな口々に魔王のせいだって言ってますよ」
「知らないってば」
「知らないとか困るんスよ!」
「知らないものは知らないもの!」
「だぁああ!! だって現に世界中の人が困ってて!」

ムッと不機嫌に眉を寄せた魔王が口を開きかけた時、ビリリと空気がぶれた。他に形容できない。コップに入った水が振動で揺れるように、空気が小刻みに動いたのだ。サッと魔王の顔から血の気が引いた。

続いて――

「うぎゃああぁああん!!」

耳に痛い子供の泣き声、いや、むしろ咆哮が城に響き渡る。まさかこの絶叫のせいだとは思いたくないが、同時にガタガタと揺れ出した室内で、俺も仲間も、魔王さえも姿勢を崩した。

「ああもう! 起きちゃったじゃない!」

そう俺に怒鳴った魔王はさきほど見せたように宙に浮くと、急いで玉座の背後へと飛んでいった。奥に部屋があるらしい。
魔法って便利だな、と思ったのは、この揺れで胃が混ぜられて気持ちが悪くなってきたからだ。
数分して、本格的に酔いかけたところで、ようやく揺れは収まった。

「なんだったんだ?」
「さあ、地震か?」

そんなやり取りをしていると、魔王が戻ってきた。腕に何かを抱えて。

「ねえ、勇者さん。私を倒したいのは悪事の原因だからよね?」
「え、はい」
「じゃあ、やっぱり私じゃないわ」

魔王は、腕に抱えていたそれを押さえ付けるように、俺の目の前で床に置いた。

子供だ。5歳くらいの、幼い女の子だった。
……目を回しているのは気にしないでおこう。

しばらくその子を見つめ、瞬きを繰り返し、俺は再び魔王を見返した。

「え?」
「この子が原因よ」
「いや、だって……こんな子供が?」
「ええ。今の体験したでしょ。この子すっごく魔力が強いの。この城の部下たちでさえ理性保つのにフラフラになっちゃうし、下界の下っ端の魔物とかね、影響されちゃうの」

魔王はものすごく綺麗な微笑みを向けた。

「倒したいなら倒してちょうだい」

この人やっぱり魔王だ、と思った。こんな小さな子供を連れてきて倒せだなんて。
というか、この子供って……。

「まあ、私の娘なんだけどね」

やっぱり!
そうでしょうね! 肌の色は違うけど、髪の毛とか角とかまんま遺伝してますもんね!?

「どうしたの? 刺すなら今のうちよ?」

なんて笑顔で言えるこの人はもはや悪魔だ。

剣を持つ手が震える。
やるのか? 相手は子供だぞ? 女の子だぞ?
でも世の中の人は困っている。この子は無意識とはいえ平和を乱している。俺は原因である魔王を倒しに来たんだから、倒すべきか?

「やっぱ、俺は……」

そうこうするうち、目を回していた女の子が意識を戻した。あーあ、と魔王の残念そうな声だけがだだっ広い部屋に零れた。

ぱちくりと大きくつぶらな目を瞬いた女の子は、不思議そうに目の前の俺を見つめる。

「おにいちゃん、誰?」

うおぉおお! やっぱ無理だ! こんな可愛くていたいけな女の子を殺すなんてできるか!!
俺は悪魔とは違うんだ!!

「ねー、だぁれ?」
「あーっと、俺は……」
「今日からお前を守るナイトになるお兄ちゃんよ」
「えっ!? ちょ、何言って」

女の子の背後にしゃがみ込んだ魔王がとんでもないことを言い出した。パッと女の子の瞳が輝き、嬉々として笑んだ頬には朱が差した。

「ナイト!? 私の!?」
「そう、お前のよ」
「ちょいちょいちょい、タンマタンマ!」
「なーによ、殺さないんでしょ」
「だからってなんでナイトになるんスか!」

あ、やっば。訊かなきゃよかった。
よくぞ訊いてくれたとばかり、魔王が喜々として立ち上がる。

「私、新婚旅行に行きたいのよ! だからしばらく面倒見て欲しいの!」
「は?」

なんでも、恋人と結婚するらしい。

「あれ、旦那さんは?」
「ああ、とっくに死んでるわ」

いわく、当時の魔王だった父親に反対され、けれどもその時すでに子供(この女の子だ)がいて、激怒した当時の魔王の力によってお相手は爆死したらしい。それに怒った現魔王は、壮絶な親子喧嘩の末、父親を倒して魔王になった、と。

なんつーバイオレンスな家庭だ。
さっきまでの俺は、親子喧嘩で親を消し飛ばすような悪魔みたいな人物に喧嘩をふっかけようとしてたのか。そう思うと人生最大級の寒気がした。

魔王は、今の恋人がどれだけ素晴らしい魔物なのかを語っている。そんな話はどうでもいいんだ。むしろつい最近フラレた俺に対しては嫌味でしかない。なので適当に相槌を打っておく。

「だいたい一年くらいでいいの。アンタ達にとっても悪い話じゃないでしょ? 悪事の元凶のこの子を殺せない以上、悪さをしないように見張ってたほうがいいんだから。私が留守の間は、城も部下も好きにしていいし、アンタは生活が保証されるのよ」

「あ、そうっスね……」
「ね? じゃあ決まり! この子もアンタを気に入ったみたいだし!」
「はい……」
「私たちはさっそく明日に出かけるから!」
「はい、って、え?」

あれ、話進んでないか? 俺が面倒見ることになってないか!?
これじゃヤバいと、ルンルン鼻歌を歌っているな魔王に食い下がる。

「いやぁでも、やっぱ俺、子育てとかしたことないし……」
「大丈夫。私も適当よ」
「いやそれはダメだろ。……じゃなくて! 種族も違うからいろいろと問題が!」
「聖水と法具にさえ気をつけていればあとはなんとかなるってば。困ったら揺り篭とかその辺の蜘蛛とかに訊けばいいから心配しないで」

なにそれ、もうどっから反論すりゃいいんだ。
俺、人間なんで揺り篭や蜘蛛と会話はできないんですが。そんな言葉は華麗に無視された。

* * *

その後、魔王に約束を取り消させることは叶わず、「明日また来てね(ハート)」と城門まで魔法で飛ばされるという強制退場をくらった俺たちは、複雑な心境と気まずい雰囲気で宿に戻った。

こうなったらすっぽかしてやれとも考えたが、それは翌早朝にやってきた魔王の部下のおかげで実現しなかった。

「あ、待ってたわよ!」

もう、なんか友達のノリだ。

「ナイトのゆーしゃ!」

娘のほうからも手を振られ、俺はただただ苦く笑みを返す。

昨日と同じ、魔王城最上階の玉座の間で、大きなカバンを脇に携えた魔王はにこやかに出迎えてくれた。
広間にずらりと魔物が並ぶ光景は圧巻だ。
魔王の隣には、やたら背の高い女がいる。2メートルは超えるだろうか。

「紹介するわね。彼が私の恋人よ」
と、魔王が紹介したのは隣の女。

「ど、うも……」

俺がへこりと軽く頭を下げても、女はじっと凝視したままだ。
というか、さっきから違和感が尋常じゃないが、彼は明らかに女だよな? 開いて肌が見える胸元に立派な膨らみがある。筋肉、にしちゃあなぁ……。
顔は、少し人間とは違うので男女の判別はできない。

「で、こっちが、私たちの留守の間に魔王代理になってくれる勇者さんよ」

そこで女が手を差し出したので、俺もおっかなびっくりその手を握る。
無表情が恐すぎる。

「急に申し訳ない」
「うおっ」

彼は一切口を動かしていないにもかかわらず、低い男の声が響いた。

「君は人間なのに魔族に優しい。おかげで旅行に行けることに感謝する」
「いえ、困った時はお互い様っスよ」
「土産は何がいいだろうか」
「いやいや、お構いなく……」
「彼は人間だから魔界のことは知らないんじゃないかしら」
「そうか。なら相応の物を選んでこよう」

この人、凄く律義で良い人だな。
そう、思った時。

「ちなみに、上半身は女だが、私は間違いなく男だ」
「彼は人の疑問を聞き取れるのよ」

固まる俺に魔王が説明を寄越す。

「それは……失礼しました」

握手を解いた彼は、傍らの荷物を抱えた。
そうしてでかいバルコニーに出る。俺たちも見送りに後に続いた。
今日はあのチビちゃんはご機嫌らしい。始終にこにことしている。

「じゃあ、魔王はいってきます。姫はいい子でお留守番しててねー」
「いってらっしゃい、まおー!」
「……」

娘に魔王って呼ばせてるのか。

「ばいばーい」

軽々と宙に浮いた二人は、ぐるんといきなり現れた黒い物に呑まれ、消えてしまった。

「はぁ……」

行ってしまった。
溜め息をついて振り返ると、間近に豚――いや、猪か――の顔があり、思わず叫んで飛び退いた。

「な、なんだよ」

服装から判断するに、どうやらそれなりに地位があるらしいその猪顔の魔物は、俺を睨みつけて腰の剣に手をかけた。おいおい、まさかだよな?

「人間ごときが魔王代理などと、」
「ぶた邪魔!」

言葉は途中で甲高い声によって遮られ、豚――じゃない、猪は痛々しい叫びで床に突っ伏した。

「ひめの前をふさぐな!」
「ぐ……申し訳ありません、姫様」

いったい何を食らわしたのか知らないが、ふんと鼻を鳴らした犯人は、俺の手を取って玉座の方へ引っ張った。

「ナイト、座って」

チビちゃんが指差したのは、魔王の玉座。
俺のことはすっかり「ナイト」で定着したらしい。

「はい」

周りからの視線が痛いが、あいつらとこの子なら、断然この子の相手(バトル的な意味でだ)をするほうが危険が高いだろう。なんせ、あの巨漢の猪を一発で沈められるんだ。
恐れ多くも俺は玉座に座らざるを得なかった。

それから何をするのかと思えば、チビちゃんは俺の膝によじ登り、俺を椅子にした。

「今から私があるじ! ひざまづけ、手下ども!」

しんと静寂が満ちた。
魔物たちの真顔の視線が集まり、俺はひどく居心地が悪い。

しかし、お姫様は反応がなかったことが気に入らなかったのか、ぎゅっと肩をすくめて体を反らし、すう、と息を吸い……、ちょ、まさか……!

「ひざまづけぇええ!」

びりりと空気がぶれ、ズシンと辺りの空気が重く落ちて、体を下に引っ張った。うめきながら魔物たちがばたばたと膝を折っていく。
全員崩れ落ちたところで重みは消え、チビちゃんはご機嫌に笑った。

「よし! 私がまおーだ!」

その後ろで俺もくたばりかけていたのはもちろんだ。
なんつー力なんだ。

「失礼ながら、姫様。魔王になるにはせめて10才にならねばなりません。あなたは幼すぎます」

口ごたえしたのはあの猪だ。あいつ、相当位が高いのか?

「ぶたうるさい」
「しかし、今日から留守とはいえ魔王さまはいらっしゃいますし……」

食い下がった甲斐があってか、チビちゃんはふむ、と思案する。

「しかたないなー。まおーが帰ってくるまでナイトがまおーだもんね」
「いいえ、私は認めません! そやつは人間で……」
「ぶた黙れ」

再び猪は床に突っ伏した。懲りないな。

「まおーがナイトは『まおーだいり』だって言った!」
「そうですが、しかし……」

そんな憎々しげに睨まなくとも俺だって魔王代理なんてしたかねーよ!
猪に加担するのは釈だが、俺は膝上の彼女を覗き込んだ。

「あのさ、姫……様。俺も魔王代理はちょっと……」
「うるさいうるさい! ナイトはひめの! だからナイトも手下もひめの言うことを聞くの!!」

結果、本日二度目の重力プレス(俺は勝手にそう呼ぶことにした)をくらい、俺はもう極力この子には逆らわないでおこうと固く胸に決めた。

「はやく、用意しろ!」
「はい!」

ワラワラと散りだした魔物たちは、何をするかと思えば、いそいそと飾り付けを始めた。

「あの……何っスか、これ」
「魔王の衣装でございます」

俺の頭には骨の冠、肩にはキングキメラの皮のマント。
膝の上のチビちゃんの頭には、銀色に光る立派なティアラと、闇を固めた漆黒のマント。ついでに水晶の靴と、装飾品が多数。

魔王の衣装って、嘘つくんじゃねーよ。これ、俺のは明らかにペット的な扱いだろ。

「では、魔王様のご帰還まで、勇者……」
「ナイト!」
「失礼。……ナイト様を我らが魔王としてお迎えします」

きゃっきゃと喜ぶのはチビちゃん一人。あとはそれぞれに複雑な表情を崩さない。

これから一年、やっていけるか早くも心配だ。

勇者の俺は、魔王を倒しに来たはずが、今日から魔王(代理)に転職するはめになった。

「ところで、お姫様の名前は?」
「ひめ!」

……やっぱり無理かもしれない。

Fin...?

 じどうてきに セーブされました▼
******
以下 アトガキ (*反転)

続くかもしれない。というか、続かないとダメな感じ……?
この時点をもって、魔王を倒すRPGは、勇者による魔王の娘育成恋愛シュミレーションゲームに路線変更です。
エンドルートは、
「晴れて姫と結ばれ正式な魔王に!」のベストエンド、
「魔王に下僕と認められ、姫の下界勉強のために一緒に旅に出る」のグッドエンド、
「育て方を間違った! 魔王になった姫に扱き使われる下僕勇者」のノーマルエンド、
「ヤンデレに育った姫に監禁される」のバッドエンド1、
「豚(猪の家臣)に寝首をかかれ、死亡」あるいは「姫の癇癪の魔法に堪え切れず、死亡」のバッドエンド2です。
 バッドエンド1は選択肢の正解率がノーマルエンドに届かない場合、バッドエンド2はそもそもルートにすら入っていない場合でわかれます。

 結果として、姫と一緒にいるか死ぬかの二択ですね!

ここまで読んでくださってありがとうございました!

 2013. 3/5
◇Photo(元画像)/ 戦場に猫
HOME > NOVEL