時は人を変える。
 人は時の流れで変わってしまう。

 変わることは良いことだと思う。
 人間は変わるからこそ、前へ進める。

 けれど、

 変わらなくていいものまで変わってしまうのは

 寂しいよね。

Rolling Waves

 駅前で、偶然にも、
 久しぶりに、幼馴染に会った。

 本当に久しぶりだった。
 小学校のとき、あの子が家の事情で遠く(ヨーロッパのどこかだったっけ?)外国に引っ越ししてしまってから、もう何年になるのか。

「……久しぶり」
「…おう……」

 時間ってスゴいと感心した。

 同じだった背は見上げるほどに伸びていて、細かった手足も男のもの。可愛らしかった声だって、低く声変わりをして耳に響く。

 ああ、クセのある髪は元々茶色だったけど、染めたんだ。もっと明るくして(ワックスでも使ってるのかな?)、微かに香る甘い匂いは香水だよね。

「あ……その…お前んち、寄ってもいいか?」
「……」
「親父から、お前のおばさんに渡すもんがあるんだよ」
「いいけど……」

 指輪をつけた指で、髪やピアスを弄る姿を見て、なんだか嫌な気持ちになった。

 今時の派手な恰好も言葉遣いも、私の知ってるあの子じゃなくなっていたから。

「いつ、帰ってきたの?」

 学校帰りの私は、そのまま彼と並んで家路を行く。

「昨日、夜に」
「そっか」

 また沈黙。ああ、気まずい。話題もないし。
 昔はこんなんじゃなかったのにな……て、そんなこと考えてるから暗くなるんだよね。比べてがっかりしてしまうから、空気も重く感じるんだ。

 気まずさからか、なんなのか、彼はひとりでに外国でのことを話し出す。

「むこうじゃ、違ってて……」

「友達がさ、その歌手が……」

 彼が話す“むこう”のことは、頭に残らずにスルスルと抜けていく。

 彼が話す彼のこと。それを聞けば聞くほどに、知らないことを知る。
 少し開いただけの“距離”って溝が、どんどん広がって、深くなる。

 別に、幼馴染を縛りたいわけじゃない。そんな権利、私にはない。

 私のぽっかり空いた穴がただ風を通すだけ。それが気に入らないの。

 私はほとんど喋らないまま、家の近くまで来た。

「昔はこうして二人で並んで歩いたよな」
「うん」

 ようやく話題に上がる、彼と私の過去のこと。

 幼い私たちはいつも一緒だった。まるで兄弟のように、二人で居た。

 ちらりと隣を見上げると、彼は重い空気なんて感じないように楽しそうに周りを見ている。

「あ、あそこの駄菓子屋、まだあるんだ。あっちの空き地は家になってる」

 昔を思い出して懐かしそうに離す姿は、微かにあの子の影が残る。

 嫌だ。
 受け入れようと、したけど、――無理だ。

 私には、あの頃の思い出の方が、ずっと大きくて鮮やかで。

「変わったなー」
「……仕方ないよ。人もみんな変わっちゃうんだから」
「え……?」

 ピタリと、隣にあった足が止まった。それを追って振り返る。

「瞳も変わったね、て話」

 昔は女の子かと思うほど泣き虫で弱々しかったのに。

 あれだよ、『瞳』と書いて“あきら”と読む名前を、“ひとみ”と読むと知ったガキ大将たちに、「やーい、女の子!」ってからかわれて泣いたんだよ。この背の高い、派手で喧嘩好きそうな男が。

 それを助けた私も私だったけど……。

「なら、そういう冬だって変わった」

 あ、呼び捨て。
 冬ちゃん、冬ちゃんって弟みたいだったのに。

 ……私って我が儘だな。

「言ったでしょ。人は変わるんだよ」

 彼の眉が軽くひそめられた。「……昔の冬は、そんなこと言わなかった」

 あの頃の君はもういないんだ。同じように、あの頃の私もいない。
 どっちもどっちだね。

「好きでこうなったんじゃないよ」

 時の流れが人を変える。

 私だって、強くない。
 流されても呑まれても、変わらないでいられるほど強くはなかった。

 ただ、あまりに波が大きすぎて、私は沈んじゃったんだよ。
 君は、私から遠く流されて離れちゃった。

 ただ、それだけ。

(もう昔のようには戻れない。)
(私の居場所がひとつ、無くなってしまったようで、)
(悲しかったんだよ。)

end
******
以下 アトガキ (*反転)

うっわ、暗っ! なんか暗い!
いやいや、背景じゃなくてですね。
でも一度は黒背景も使ってみたくて。

ここまで読んでくださってありがとうございました!

 2008. 8/7

◇Photo/ 戦場に猫
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