『いつか旅に出ようと思った。
小さなこの場所に留まらず、世界を見たいと願っていた』
そう打ち明けた僕に、君は素敵と笑ったんだ。
「私はここで待ってるから」
世界を見て帰って来て。そしたら、私に話して聞かせて?
玄関戸口に立って、手を振って見送ってくれた君の姿が頭から離れない。
何度も何度も立ち止まる。
何かが僕を呼び止めて、脳裏にモヤが立ち込める。
何か不安で堪らなく、僕は急いで道を駆け出した。
今来たはずのこの道を。
遠くに黒い煙が上がっていた。
彼女がいるだろう家の方向だ。
不安が不安を呼び寄せて、どんどん僕に押し寄せる。
ああ、またか。
また僕は同じ過ちを繰り返す。
いつだって、もっと欲しいと欲張って、今あるものすら失くしてまう。
たどり着いた我が家は真っ黒で、何が何かもわからない。
骨組みだけを残したまま、ただの木炭に成り果てた。
群がる人々。
飛び交う同情。
力が抜けて、膝をついて、うなだれた僕の耳に飛び込む、幾つもの声。
どれも僕には届かない。
とても大切だった人。
いつも傍にいて、笑い合っていた人。
共に生きると誓った人。
たった一日、離れただけで、もう二度と会えなくなってしまった人。
君の名前を呼んでみても、返る言葉は届かない。
――ふいに誰かが僕を呼ぶ。
「どうして……」
振り向けば、そこにあったのは君の姿。
何も変わらずに、腕に紙袋を抱えていて。
怪我もしてない、煤で汚れてもいない。
別れた時と変わらない姿。
驚いて目を見開き、僕を見るその姿に、僕が一番驚いた。
思わず、
無意識に。
君を抱き締めて、涙が流れた。
(失くしてなかった、)
(大切なもの。)
「どうしたの?」
「よかった、無事で」
(もう、世界を見てきたの?
(僕の世界は、君なんだ)
end
短編というより、SSS(Short Short Story)な感じが…?
ちなみにラストのオチ、分かります……か?
死んだと思った彼女が、実は買い物中で無事だった
――のザ・勘違い☆、です。
に、しても……最後のセリフ 寒っ!
自分で書いといてなんですけど、ね
何なんでしょうね…?(←聞くな
ここまで読んでくださって ありがとうございました!